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寺脇先生の教育論≪寺脇研先生の教育論≫【第41回】小学校教科書の変貌

 2011年からの学習指導要領改訂に伴い,小学校教科書が大きく変わりました。

  算数なら,苦手な子どもにもよくわかるような詳細な説明があります。理科なら,家庭で親と一緒に,
あるいは自分自身でもできるような形で実験が豊富に例示されています。それ以外でも,言語活動を
重視したていねいな表現や他学年や他教科との関連への論及,学習内容を生活に生かす活用力を伸ば
す部分など,各方面にきちんと配慮されています。わたしは,子どもが学ぶ立場を大切にした細やか
な教科書だと高く評価しています。
  教師が生徒に知識を教え込む道具としての教科書から,生徒が教師や親,地域の大人たちの力を借りて
自ら学ぶ材料を提供する手引書としての教科書へ,初めてはっきりと役割転換したのではないでしょうか。
教室の授業時間だけでなく,家でも地域社会でも,この教科書を手引きにして学ぶことができます。子ど
もたちは,興味・関心に応じて自分に最も合った手順やスピードで学べばいいのです。
 「ゆとり教育」と揶揄される教育システムは,元々「教育する側」主体から「学習する側」主体へと切り
替えを眼目にしていました。新しい教科書は,この切り替えを前提にして大きく変貌しており,少なくとも
小学校における学習者本位システムの定着を物語っていると感じています。

  あわせてこの小学校教科書の欠点についても指摘しておきましょう。
 それは,第1次安倍内閣が行った教育基本法改正の国家主義的部分に過度に反応している点です。伝統
文化はわたしも重視すべきだと思います。しかし,あんなにたくさん,しかも机上の知識を載せるべきで
しょうか。小学校段階では,歌舞伎や能,狂言の歴史や形式を詳しく知るよりも,それらに直接触れる機
会を重視すべきではないでしょうか。最近の子どもたちは能,狂言をミュージカルのように楽しんでおり,
総合的な学習の時間などを活用した成果が上がりつつあると感じています。
また北方四島や竹島など領土関係の記述を神経質なまでに細密にしているのもよくありません。自国の領土
を意識し知るのは大切だが,小学校段階ではもう少しおおらかでいいのではないでしょうか。子ども心には
「地球はひとつ」くらいで構わないのです。それを国境で区切られなければならないことの意味は,成長に
沿って徐々に知ってもらうほうがいいと思いのです。

(著書『「学ぶ力」を取り戻す』慶應義塾大学出版会・刊行,p104-p107より)